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タチウオが眩しかった太宰治的釣行の巻~東京湾奥浦安出船のタチウオ~

隔週刊つり情報編集部

・・・え?

記憶はあいまいだ。

その瞬間、頭にモヤがかかってしまった。

「あ~っ!」だったか、「掛かってるよ!」だったか、あるいは「落ちた!」だったか、もしくはその全部か・・・。

よく分からないが、とにかく沖藤編集長の叫び声に船ベリを見たそのとき、自分のタックルが一式、海中に没していった。

一瞬だった。

ともえ投げを食らったかのように竿尻を跳ね上げて、スパーンと引きずり込まれ、消えていったのだ。

いや、そのシーンも本当に自分が目にしたのか、脳が勝手に補完しているのか分からない。

いずれにしても、そこにあるべきオレのタックルがなかった。

え?あ?はい?いや、ちょっと待ってくれよ……。
 
現実を受け止められない。

視野がキューッと狭くなる。

夏らしく脳天気に明るい光の中なのに、視界の四隅が暗い。

こめかみのあたりをザッ、ザッと血が流れる音が聞こえる。

・・・え?

今年1月にようやく購入できたシマノ・カルカッタ301HGが。

今回のテンヤタチウオ釣行に合わせて購入したシマノ・サーベルマスターBB82MH180が。

手のうちにあった頼もしい重みが。

何もない・・・。

とっさに、恥ずかしいと思った。

これは釣り人としてやってはいけない恥ずべきことだ。

オレは竿先を10cmほど船ベリから出して、竿を置いていた。

ホルダーに掛けず、ただ置いていた。

指示ダナより10mほど巻き上げ、底から20mほどのところにテンヤがあったので、魚が食ってくることはないだろう、と高をくくっていた。

竿尻は釣り座ではなく足元にあったので、竿には角度が付いている。

リールの重みもある。

持っていかれることはないだろう、と甘く見ていた。

そしてクーラーが置いてあった離れた場所に行き、デカビタCを一口飲んだ。

すぐに戻るつもりだったが、「もう一口・・・」と欲張った。

さらに「ついでにパンも食おう」と、ヤマザキ・ピーナッツパン(5個入り。100円)を手にした瞬間の出来事だった。

蒼一郎はオレの右隣で淡々と自分の釣りを続けている。

目を合わせてもくれない。

本当に恥ずかしい・・・。

釣り人としても、親としても、絶対にやってはいけないことをしてしまった・・・。

テンヤに備え目一杯努力した分 思い詰め、まるで余裕がなかった。

8月12日、東京湾奥浦安・吉野屋のタチウオ船に乗り込むオレは、めちゃくちゃ気合が入っていた。

その1カ月ほど前に、ヨッシーこと吉岡進さんの連載取材でテンヤタチウオに挑み、爆裂轟沈していたからだ。

アッタマきていた。

それなりに沖釣り経験を重ね、タチウオもジギング、テンヤで釣ったことがあるにもかかわらず、ちょっとトリッキーな状況になるとたちどころにボロを出す自分に。

とくにタチウオは、釣れるときは釣れるが、釣れないときは釣れない。

まぁ魚はなんでもそうなんだけど、タチウオの場合はその振れ幅がデカい。

そのうえ、釣れないときでも釣る人は釣る。

かなり腕の差が出る釣り物なのだ。

怖。

タチウオマジ怖ぇ。

この釣りは本気で臨むぞ。

オレは燃えていた。

ヨッシー取材時に同船しドラゴン級をスマートに上げていた上州屋木更津店スタッフの宮原映人さんに相談し、シマノ・サーベルマスターBB82MH180を買った。

オシアカルカッタ301HGのPEラインは、もちろん新品に巻き直した。

テンヤもAmazonでポチりまくった。

さらには内寸長86cmを誇るシマノ・スペーザホエールライト650まで買った。

それまで使っていた長物クーラーは夏場まったく氷が保たなかったからだ。

ドラゴンを持ち帰るには万全を期したいではないか・・・。

しかも今回はテンヤタチウオということで、イワシエサを自分で用意しなければならなかった。

近所のスーパーを駆けずり回り、大羽イワシを買い漁ったが、親子2人分で45匹しか集まらず、どうにも不安だ。

アタリが多ければたちどころに足りなくなってしまう。

外房住まいの地の利を活かし、ヒラメ船の船長さんに相談したら「死んじゃったイワシを確保しておくよ」と言っていただき、ようやく安心できたのは釣行前日だった。

寝る前にはYou Tubeでテンヤタチウオの動画を観まくった。

やるだけのことはやった。

この努力は報われてしかるべきだ。

初めて行った浦安の吉野屋は大変な賑わいを見せていた。

和モダンな船宿はとてもキレイで、スタッフの方たちの応対も素晴らしく、感動的だった。

緑色の大型船がお客さんを乗せて離岸していく。

午前7時、いよいよオレたちの乗るタチウオ船が船着き場を出発した。

前回の親ゴーにも同行し名女子カメぶりを発揮してくれた成瀬樹里ちゃん、オレとは対極的な爽やかな笑顔の堤康貴さんも来てくれて、左舷胴の間の我われの釣り座は賑やかで楽しい。

だがオレは、過度に緊張していた。

めいっぱい努力した分、「ぜってぇ釣らねば!」と思い詰め、まるで余裕がなかった。

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「こんだけ頑張ってんのになんで 釣れねえんだよ」とおれはくさった。

浦安からグイーッと南下し、午前8時、猿島沖の水深60m前後のポイントで釣りが始まった。

が、オレの顔色はますます悪くなっていった・・・と思う。自分では見えないけど。

周りがどんどん良型タチウオを釣っているのに、わが親子にはなかなか掛からないのだ。

オレのみならず、頼みの綱である蒼一郎も型を見ない。

彼はいつもクールに釣りをするので内面をうかがい知るのは難しいが、仕事として釣りをしているかぎり強い責任感を持って釣りに臨んでいる。

釣行の写真

テンヤタチウオが大好きで通いまくっている増田さんは気さくで楽しい方でした。

釣行の写真

(上)成瀬樹里さんは1投目から置き竿ズル巻き釣法でキャッチ。(下)サクッとドラゴン釣っちゃうし。

周囲で釣っている人のマネをしながら色いろ試行錯誤しているようだが、タチウオは応えてくれない。

オレは何度もアタリがあるのに、なぜかテンヤのヘッドにばかり歯形が付いて、イワシを食ってこない。

もしかしたらヒラメ船の船長にいただいたイワシの身持ちがよすぎて、ただ付けただけではニオイ的な魅惑成分が足りないのだろうか・・・。

今になって振り返れば、ヘッドにアタックする=動きに反応するタチウオがいたのに拾えていなかったのかな、と思えるし、だったら別の戦略があったような気もするが、船上ではそこまで思いつかなかった。

途中から腹を割きハリを埋め込むようにしたらようやくガガガッとやる気のあるアタリが出るようになり、「うっしゃ!」と合わせたらシッポのちぎれたイワシが上がってきた。

なんだ、この空回り感は・・・。

親ゴーを愛読していただいている奇特な方ならご存じかと思うが、基本的にオレはテキトーである。

釣りに関しても、釣果自体よりその日一日を楽しむことを重視している。

クーラーが空っぽでも心が満たされればそれでいいや、と。

ところが、竿を買い、クーラーを新調し、駆け回ってイワシを集めた今回のオレは、完全に釣果第一主義に陥っていた。

いや、わざわざ船に乗って釣りするんだから釣果第一主義は正しい。

でも、それは少なくともいつものオレではなかった。

午前8時の釣り開始から小1時間ほどたって、蒼一郎が待望の1本を釣った。

倒れそうなぐらい安堵した。

でかした。

それでこそオレの息子だ。

つまり、父が釣らなくてもしっかり釣る子だ・・・!

だが、オレの気持ちは晴れなかった。

「こんだけ頑張ってんのになんで釣れねえんだよ」とクサクサしていた。

それから2時間もたってからオレはようやくかわいいタチウオを釣った。

チョチョン、と竿先を戻すアタリがあったが、合わせても掛からない。

そのままゆっくり巻き上げて2秒止め、ゆっくり巻き上げて2秒止め、を繰り返すこと10m、ようやく食いついてきた。

食い上げているようだったので急いで巻いたが、魚の重みを感じない。

バレたか・・・と哀しくなりつつ巻き上げ速度を緩めずにいたら、最後の最後にやっと重みが乗ってきた。

でも、ちっちぇえよ。頑張りに見合わないじゃんか・・・。

樹里ちゃんがカメラを構えて「笑ってくださいよ~!」とかわいく言ってくれるが、「笑えって言われて笑えるもんじゃねえよ!」と(心の中で)毒づく始末だ。

こりゃアカン。

気持ち的に何か相当根深い問題がありそうなオレなのだった。

「大きいのはタナより10m上を泳いでいたりする」んだよマジで。

いくら気持ちがすさんでいるからって、ロッドホルダーに掛けず置き竿にして飲み食いをしていいはずもない。

しかも、なんと沖藤編集長が何の気なしに言っていたのだ。

「大きいのはタナより10mぐらい上を泳いでいたりするんだよ」と。

オレはニコニコしつつ、内心では「ま、そんなことめったにないでしょうけどね」とまったく真に受けず、偶然タナより10m上にテンヤを置きっぱなしにしていたのだ。

マジですさんでいたのである。

そして見事にわがタックルは(恐らく指30本分ぐらいの超巨大タチウオによって)海中に引きずり込まれたのだ。

もう人間失格だ。

「生まれて、すみません」だ。

全面的に太宰治だ。

どうしたらいいのか分からなかった。

頭の中は真っ白で、目の前は真っ暗で、ひたすら自分を責め、夏の日差しの下とは思えないほどオレは太宰治だった。

どれほど時間がたったのか分からない。

うなだれ続けていると操舵室から岩淵裕介船長がひょっこり顔を出し、「竿とリール、惜しくないの?」みたいなことを朗らかに言った。

意味が分からなかったが、「あ、いや、はい、そりゃ、惜しいです・・・けど」と答えると、「掛かったよ」とさらに意味不明なことをおっしゃる。

「え?あ、・・・え?」

何がなんだかよく分からないままに船長に指された右舷に行くと、ああなんってこった! 

仲乗りさんの手によりオレのタックルが引き揚げられようとしていた。

すべて無傷などころか、テンヤまで無事だった。

信じられない・・・。

今、こうして原稿を書いているオレの手元に竿とリールがあるのだが、いまだに信じがたい。

海中のわがタックルを仲間の堤さんが引っ掛け、それが右舷の方とオマツリしたらしい。

その直後に、蒼一郎が120cm、指幅8本級のドラゴンを見事にキャッチした。

そしてオレのタックルを救ってくれた堤さんが、14時の沖揚がり間際の最後の最後に、145cmの超ド級を釣り上げた。

なんなんだろう、とワケが分からなかった。

帰りのクルマの中で、自分でもよく分からないまま涙がにじんだ。

努力が報われた、とはまったく思わない。

すべては自らの愚かさのせいだ。

頑張ったからって報われるとは限らないのが釣りなのに、クサクサしたアホだ。

しかし結果的には失われかけたタックルが手元に戻り、わが息子が狙いどおりの大物を釣り、オレのタックルを救ってくれた仲間が最大を釣ったのである。

こんなドラマがあっていいものだろうか・・・?

引き上げられたタックルで、オレはタチウオを1本追加した。

ちっちゃめだった。

釣行の写真

仲乗りの川越さん、あなたは恩人です!

タカハシゴーの船釣りあるある~今回も名人は飛ばしたよ!~

蒼一郎のためになる手記

テンヤだけでタチウオを狙うのは初めてです。

水深は60m前後でした。

まずは「3回ぐらい誘い上げてから止める」という基本的な釣り方から始めました。

早くもポツポツと釣っている人がいます。

上手な人はよくアタリを出しているので観察すると、ゆっくりと巻き上げながら3回大きめにテンヤを跳ねさせるような誘い方をしています。

マネしてみると、いきなりアタリが出ました!

合わせるも乗らず、追い食いもありませんでした・・・。

しばらくアタリも出ない時間が続きます。

やはり水深60mほどのポイントに移動しました。

底から5mほどのところで食い上げるアタリ!

そこそこの重量感で上がってきたのは、指幅5本はありそうなタチウオでした。

なんとか釣れてひと安心・・・。

次は大型を求めて!

着底の5m手前で糸が止まったので、そのまま即合わせ!

10m上げたところでハリから外れたので、テンヤをいったん止めてから誘い上げ。

反応がないのですぐに2mぐらい落とし込むと、追い食いしてきました!

やる気のあるタチウオをゲットです。

イワシは頭を落として腹を開いたほうがアタリが多いことにも気付きました。

ただ、そう簡単には食ってきません。

底から誘ってもアタリがない・・・。

10mほど上げたところで竿先がコツコツと振れました。

合わせると、ま、巻き上げられない・・・!

しばらくそのまま耐えて、竿の弾力が魚を浮かせてくれたところで一気に巻き上げました。

重量感と引き方が今までとは明らかに違います!

上がってきたのは120cm、指幅8本のドラゴンでした。

お腹の太さがすごい!

テンヤタチウオは誘い方と合わせのタイミングが大事で、すごく奥深い釣りです。

「1回ではつかみ切れない面白さがあるな」と思いました。

イワシの写真

(左)テンヤタチウオはイワシエサの確保が大変!とりあえずスーパーを巡りまくった。(右上)懇意にしているヒラメ船の船長に相談したらドッサリと手に入ってしまった・・・。(右下)イワシを見かければとにかく買い、塩漬けにしたりそのままの状態で冷凍保存した。

料理の写真

(左)最近は料理 のレパートリーも増加。揚 げ物も余裕でこなす。(右)蒼一郎考案、 タチウオのフライを乗せた タチカレー。うまいっ!

今日の一言

今号のヒトコト。確かになぁ。ドラ8やらかしちゃったもんなぁ!

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隔週刊つり情報(2020年9月15日号)※無断複製・転載禁止

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